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地域に明かりを灯すコワーキング「アルゴット戸倉」(長野県千曲市)

地域に明かりを灯すコワーキング「アルゴット戸倉」(長野県千曲市)

各地のコワーキングスペースを巡り、日本のコワーキングの「今」を体感するコワーキングツアー。そこで見聞したコワーキングのあれやこれやを切り取ってご紹介するコラム、その23回目は、長野県千曲市の「アルゴット戸倉」さんにおじゃまし、運営者であるオカダビジネスサポートグループの岡田拓也さんと駒込哲也さんにお話を伺いました。
(取材・テキスト / 伊藤富雄 取材日:2016年8月18日)

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アルゴット戸倉
〒389-0804 長野県千曲市戸倉1866-1市川ビル2F
TEL. 050-3805-2411

新聞記事が背中を押した

「アルゴット戸倉」をはじめたおふたりも、実はコワーキングスペース出身だ。だが、最初に事務所を構えたのは、ここ戸倉のアパートの一室だった。岡田さんは、旅館専門のネット集客コンサルティング業である「ダイレクトホームページワン」を2年半前に起ち上げて独立した。

ぼく(岡田)自身がここのすぐ近くの戸倉上山田温泉の旅館に、16年ぐらい勤務していたんです。なので、単にネットマーケッターというよりも現場上がりなので、この業界のことは全部判っています。ぼくのいた旅館さんでは、ネットをまったく活用していなかったんですけど、やりはじめたらエリアナンバーワンの売り上げを誇る宿になっちゃったんですね。そういう経験を活かして、旅館だけに絞ってネットを利用した販路開拓のお手伝いをしています。

得意分野を持っているというのは本当に強い。「旅館専門」のコンサルティングというだけあって、いわゆるホテルという施設はやらないというから、そのあたりは徹底している。

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その後、長年ネットショップの運営に携わっていた駒込さんと意気投合するのだが、そこでふたりはあることに気がついた。

旅館って箱ものビジネスなんですよね。つまり、数に限りあるものをいかに高く売るか、いかに利益を残すか、なんですよ。それって、フリーランスの方々と一緒じゃないかと。自分の受けられる仕事の限界はあるし、単価は高くしたいし、そのためにいわゆる価値をどうやって見せるか、どうやって集客するか、というところがポイントになるよねと。そうすると、旅館ビジネスと似ているところがあるなと思ったんです。

こうしてふたりは、個人事業者のマーケティングをサポートするコンサルティング部門「SKKコンサルティング」を始動する。そんなある日、長野にコワーキングスペースができたという情報を得て、ふたりで見に行ってみたら「これはいいな」といっぺんに気に入ってしまった。

ぼくらもパソコンひとつあればどこでも仕事はできるので、ここらで働き方を考え直してみようと。オフィスコストも抑えられるし、いろんな人脈ができるので、それですぐそっちに動いたんです。

それが、このツアーの長野編の最後に紹介する長野市の「Creeks Coworking」だった。ここでのユーザー体験が、その後の「アルゴット戸倉」開業へとつながる。ただし、戸倉にコワーキングを開業するその目的は、実は地方都市特有の、そして共通の危機感からだった。

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ここは温泉街だが、随分以前から駅前が寂れていてイメージが悪いと、ずっと言われていた地域だ。事実、上山田温泉に来る旅行者は年々減っている。彼らもなにか対策を練らないといけないと感じていた。

まず駅前だよね、駅前に何を作ればいいかな、と考えてたんです。飲食店ではあまり面白くない。そもそも、さびれてるのは人が少ないからだ。だったら、人が集まる場所があればいいんじゃないか。で、上山田で起業したい人っているんじゃないかなと思ったんです。それまでに、長野のコワーキングでいろんなイベントしてるのを見てたし、駅前に面白い人たちが集まって、温泉街を変えていく発想が出てくればいいなと考えたんです。

驚いたことに、「アルゴット戸倉」が入居するこの建物も、国道18号沿いの戸倉駅に向かう角地にも関わらず16年もの間、テナントがつかなかったそうだ。こういう物件は、いまや日本中にあるのだろう。だが、その国道には結構な交通量があるし、しなの鉄道もあるし、なにより温泉がある。うまく活かせば目立てるはずだ。駅前であるにも関わらず、夜になると真っ暗だったこの地域に、「まず、ぼくらで明かりを灯そう」と思い立った。

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温泉街の旅館に関わってきたので、戸倉上山田にはビジネス需要があるということは知っていた。だが、「あそこでやるぞ」と言ったら興味を持ってくれる人が果たしてどれぐらいいるのだろう。そう思い、始める前にまずFacebookページを公開した。これが、思わぬ展開を呼ぶことになる。

こういうところでこういうことをやろうと思ってます、と書いたら、結構広がって、それを見た日経新聞長野支局の記者さんが取材に来たんです。 人口6万人ぐらいの小さな温泉街で、なんでコワーキングを作るんですかって訊かれて、温泉街ともタイアップできるようなことをして、この街を再生する、盛り上げていけるようなことがしたいんだと。そのためには、まず駅前に情報発信できるような場所としてコワーキングを作りたい、と話したんですね。

あまり期待してなかったんですが、それが結構でかでかと掲載されて、しかも、その計画が着々と進んでいるかのような、あたかも既成事実かのように紹介されてしまったので、それを見て「これはえらいこっちゃ」と。(笑)

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実はその時点では、まだテナント契約も済ませていなかったので、あわててビルオーナーに電話して賃貸借を申し込んだ。それが今年(2016年)の1月26日のできごとで、オープンしたのが3月14日だというから、いかに急いだかが判る。しかし、そのことが彼らの背中を押したとも言えるかもしれない。それ以来、朝9時から夜9時まで営業し、文字通り地域に明かりを灯している。

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カフェとの両輪経営でまずは人の集まる場を

その正式名を、『コワーキング&カフェ「アルゴット戸倉」』というように、ここはカフェを併設している。ぼくはかねがね、キッチンがあるコワーキングが最強と考えているのだが、ここはもともと、そういう物件だったのだから都合がいい。だが、彼らはオープンしてしばらくして、コワーキングとカフェを切り分けて営業することを決める。

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ぼくらが今一番テーマにしてるのは どうやってここにはじめて足を運んでもらうかなんですけど、この辺にはカフェってないので、じゃ、カフェはカフェで営業したほうがいいということで切り分けたんです。 すると近所の人も来てくれるようになって、来たらコワーキングって何と説明できる、ついでにイベントの告知もできる。なので、両方を別に運営するようにしたら利用者が増えてきました。

なにげない話に聞こえるが、これはこの場所を周知させるということのみならず、経営上も結構重要な判断だ。コワーキングでは、ごく普通に(有料でも無料でも)飲み物を提供するが、コワーキングの利用者であるというのが前提条件なのがほとんどだ。コワーカーに対するひとつのサービスとして供されている、というレベルと言っていい。

しかし、コーヒーぐらいならまだしも、食事メニューとなると経営的に結構タフな仕事になる。コワーカーにその利用客を絞った場合、「アルゴット戸倉」のような地方では、なかなかペイしないのは想像に難くない。だが、一般の客にも提供することにすれば、その収益はスペースの維持費にも充てられる。だから敢えて切り分けて、別のビジネスにした。売上の入り口を入れ替えたというか、いわば発想の転換だ。

加えて、こういう背景も作用している。このあたりでは人が集まれる場所がない。利用者が共用できる場所、いわば公民館的に使える場所がない。あったところで、公民館は原則として地元の人しか使えない。内も外も入り混じって、ミーティングやイベントで利用できる場所がない。せいぜいファミレスだが、そこで話し込んだり、賑やかに盛り上がったり、あるいは人に聞かれて困るような話もできない。まして、コーヒー一杯で居座っては…という気兼ねもある。必然的に地方ではコワーキングがそれを代替するのではないか。そういう気付きでもあった。

ビジネスのために利用したいという方と、公民館的に使いたいという方の需要はいまのところ半々ですね。どっちも需要はあるんですよ。

この割合は、地方においては平均値かもしれない。利用者層は、ウェブデザイナーやプログラマーなどの個人事業者の他に、資料の整理に営業マンが使ったりするなど企業に勤める人もいるが、子供の遊びをサポートするNPOも利用したり、地元の地域活性化の活動している人たちが、信州の郷土料理である「やしょうま」を作る料理勉強会を開いたりもする。まさに公民館だ。

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人が集まるようなイベントを次々と考案し、告知する。屋外バーベキューや、花火大会で屋台を出して、子供たちにどうやってお金を得るのかを勉強させる一種のワークショップも積極的に開催している。

「婚活パーティ」も実績があるというから驚きだ。これもカフェを併設しているのが功を奏していることだが、元はといえば、長野市と上田市に住むカップルがちょうど中間地点にある「アルゴット戸倉」で落ち合い、婚姻届けを書き出したことがきっかけらしい。いい話だ。聞けば、上山田温泉には恋にまつわる伝説もあるらしい。これもまた地方創生の一助になるはずだ。

他に、これも温泉街らしい発想だろう、スリッパ卓球大会なるものも催されている。

他のコワーキングでやってること、同じことをやっても面白くないじゃないですか。温泉地というところをぼくらは特化したりできるので。なんかこの人たちが面白い事やってるぞ、と、若い人もこういう場所を求めていたと思います。ここへ行くと何かがある、というようにしていきたいですね。

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その一方で、「アルゴット戸倉」では、起業によってこの街を再生するための取り組みとして、「Challenge! ちくま」というイベントを、これまで3回開催している。

起業したい人たちや、この地域で何をやりたいのかが具体的に決まっていない人たち、でもなにかやりたいんだ、いつかやりたいんだという人たちの悩みを発表してもらって、いろんな人が参考意見を述べてその人の悩みを解決する。ついでに、それを手伝える協力者を作る、そういうイベントにしようということでやってます。

10名前後が集まり、各自15分ぐらい自分の話をしてもらって、その後、40分ぐらいディスカッションする。基本的にはブレスト方式なので、否定的なことは発言せず、「こうしたらいいかも」という提案をするのが原則だ。

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「すでに何か始めてる人よりも、始める前にモヤモヤとしている人たち、何をしたらいいのかわからないという人たちを対象にしたい」とのことだが、これまで各地のコワーキングを訪ねて回ってみて、この視点でいわゆる「起業予備軍」をサポートするスペースがいくつもあることにぼくも気づいた。

そういえばどこかで聞いたような話だ、と思われた方もおられるかもしれない。そう、福島県いわき市の「TATAKIAGE JAPAN」でも同様のイベントを継続しているし、同じ福島県郡山市の「co-ba koriyama」や愛媛県松山市の「マツヤマンスペース」でも、起業マインドを持った(起業前の)人たちのためのコミュニティが活動している。

そして、「アルゴット戸倉」では、駅前で飲みながら気さくに話ができる異業種交流会もはじめている。さらには、商品開発や資金調達など、起業した人の次の段階もコンサルしていく予定だ。

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これからの千曲市のために

長野県は、主に首都圏からの移住誘致にさまざまなプログラムを実行している。「おためしナガノ」はその代表的なものだが、この制度に参加した長野のコワーキングスペースで仕事をした人の半数以上が移住を決めたというから、その効果は大きい。

その関係もあるのだろうか、コワーキングスペースが行政の助成金をうまく利用して運営している事例も多いようだ。だが、「アルゴット戸倉」はその方法論は取っていない。

会員をどうやって増やそうかという商売っ気がなくなってしまうように思えたんですよね。助成金頼みになってしまって、逆に自分たちのやりたいことが後回しになってしまう恐れも感じたので、ぼくらは基本的にそういうのは受けずに自分たちで好き勝手に頑張ろうぜという感じですね。

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もっと千曲市を盛り上げたい。そのためには、駅前の活性化、温泉街の再生を進める。そして、最終的には、移住問題にも関わっていくだろう、と語る。とにかく人口が減って行ってる。とりわけ若い人が減っている。

求人しても応募してくるのは年配者ばかりです。それでは、企業の成長も滞ります。一番ほしい層の人がいないんです。みんな都会へ行くんです。 移住は、住むところと仕事があったら可能ですよね。じゃ、人材を求めている企業に手を挙げてもらって、この辺の空き物件のアパートオーナーに交渉して、期間を区切って、例えば半年後には出ていくから家賃半額にしていれてくれないか、というようなことも可能なんじゃないかと思います。

これから20世紀までの日本とは、ぜんぜん違う世の中になっていくのは明らかだ。そこには、こういう一見突拍子もない取引もごく当たり前に行われる気がする。ことに地方都市の空き家問題は、人口減を如実に表す危険信号であり、その行政の地盤を揺るがす可能性が高い。

さらにもうひとつ、非常に面白い企画が彼らにはある。

千曲ツアーというのを考えてます。ぼくらは旅館コンサルなので宿泊を伴う企画ができるんです。現地集合してもらって、例えば長野駅に集合して、ぼくらが各地のコワーキングへ連れていきます。コワーキングと、その近くの住める環境も一緒に物件探しをしたりとかやるんです。 夜は温泉に入る、懇親会もやる、地域の商工会の青年部とか、そういう地元の人たちにも参加してもらって、「この町ってこうだよ」とアピールしてもらう。翌日、上田駅で解散。

なるほど、これも彼らの強みを活かした企画だ。注目すべきは、ただ「アルゴット戸倉」のことだけを考えているのではないことだ。さらに、地元の人たちとの交流を盛り込んでいる点が素晴らしい。コワーキングスペースも住む家も大切だが、その土地の人たちのことを知るのも、移住を決める上で極めて重要なプロセスだと思う。

彼らにとって、コワーキングスペースを運営することは、地元戸倉を、千曲を盛り上げる、再生する、そのこととまったくイコールなのだ。人が集まればスパークを起こす。そのスパークが種火となり地域を動かす内燃機関を爆発させる。コワーキングはローカルエコノミーを駆動するエンジンでありプラットフォームだ。

その実現のために、彼らはあらゆる手を尽くして、駅前に明かりを灯し続けていくことだろう。

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アルゴット戸倉

〒389-0804 長野県千曲市戸倉1866-1市川ビル2F
TEL. 050-3805-2411

・ドロップイン:2時間以内:500円(税込み) 2時間〜:1,000円/日(税込み)
 ※学生も同一
・フリースペース(月単位利用):12,800円/月(税込み)
 ※学生:9,800円/月(税込み)
・個ブース(月単位利用):1人用:25,000円/月(税込み)

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