現役フリーランスが語る、開業前にクリアしておきたい3つの課題
独立、開業、一人社長―事情は人それぞれですが、フリーランスへの道を意識しはじめると、ワクワクすることも、不安になることも出てくるのではないでしょうか。ここでは起業前の不安を解消するとともに開業後の仕事が円滑になるよう、会社勤めから独立までの間にどのような課題があって事前にやっておけば良いのかを、筆者の経験を交えながら紹介していきたいと思います。
1.働き方を明確にしておく
「何のためにフリーランスになるか」という目的意識と「こんな仕事をしたい」というワークスタイルは、事業の根幹であり活動を建設的かつ合理的に組み立てるために必須です。「考えながら確立したい」とお考えの方もいらっしゃるかもしれませんが、事業の推進力として機能するこれらは、先延ばしにせずはじめに固めておく方が賢明です。
仕事に必要なものを理解しよう
「業務で利用しているソフトウェアを、独立後に購入しないといけないことを計算に入れていなかった」という失敗談は、割りと耳にします。職場についても自宅なのか、事務所を借りるのか、それともコワーキングスペースやレンタルオフィスを利用するのか…仕事をする場所をあらかじめ決めておきましょう。また、事務所を借りる予定の場合、独立後では不動産契約やローンは金融機関からの信用を得にくく審査に苦労する可能性が高いため、こうした手続きは出鼻をくじかれないよう在職中に済ませるのが定石です。クレジットカードを利用されている方は、こちらも在職中に契約しておくのが望ましいです。
用意するものをリストアップしよう
業種によりけりですので大まかになってしまいますが、これらは
- 実務に必要なもの
日々の仕事で使う道具やソフトウェアなど - 営業活動に必要なもの
開業届、名刺、フライヤー、料金表、ウェブサイト、SNSのアカウントなど - 事務ないし経理に必要なもの
書類フォーマット、文書作成ソフト、会計ソフトなど - 資金運用に必要なもの
銀行口座、クレジットカードなど - 上記の手間を軽減してくれるもの
効率化ツール、クラウドサービスなど
の5つに分けられます。それぞれを掘り下げながら、チェックリストを作ってみましょう。もし身近に同業の先輩がいるようでしたら、参考までに尋ねてみるのも良いでしょう。
2.仕事が入る仕組みを作る
見込み客がいない状態での独立は、廃業のリスクが高いため可能な限り避けたいところです。1、2年は売上がなくても生活を維持できるぐらいの資金を用意しておく方法もありますが、営業手法を模索しながら貯金を切り崩していく生活は、精神的な負担から事業に集中する心の余裕を奪われがちですので、順調なスタートダッシュを心がけましょう。
認知してもらう
独立すると、ひょんなきっかけで仕事を紹介してもらうことがあります。そして、そのためには、自分がフリーランスであることを周りに伝わっている必要があります。確実に独立する予定でしたら、いつ頃から何屋になるか、何が得意なのかなどを話せるようになっておきましょう。肩書やキャッチコピーを考えるのもお薦めです。コワーキングスペースのような交流の場や交流会に参加して色んな人に会ってみるのも良いでしょう。
「推定見込み客」を見極める
勤め先の取引先に退職の挨拶する際「独立したら応援します(仕事を振ります)」といった旨の言葉をかけてもらうことがありますが、案件の具体的な内容や打ち合わせの提示がない限り、社交辞令ぐらいに思っておいた方が無難です。本当に仕事がもらえそうな手応えがあっても、現段階では口約束にとどまることがほとんどでしょう。これは経験則ですが、企業が個人事業主と積極的に取引をすることは稀ですので過信は禁物です。独立後すぐにアプローチし、本当に見込み客かどうかをはっきりさせておきましょう。
自分にできることを整理する
独立について考えている時点で「この仕事で生計を立てよう」と、ある程度のビジョンをお持ちでしょうが、それ以外にできることに意外な需要があったり、仕事と組み合わせることで「付加価値」が生まれたりと、その可能性は侮れません。ちなみに筆者は趣味で続けていたブログやPCの組み立て、スマートフォンの設定といった本業ではない経験が仕事につながっています。実務経験や資格、特技、職務経歴書などを振り返りながら自分の持つスキル、造詣の深い趣味などを把握しておきましょう。
3.計画を立てて実行する
独立したらどのように活動し、仕事を得て、売上を伸ばしていくのかを事業計画書にまとめ、それを元にスケジュールを組んでいきましょう。
提出書類、役所の手続きを済ませる
開業届、青色申告承認申請書、青色事業専従者給与に関する届出・変更届出書などの事業に関わる手続き、国民健康保険への加入または社会保険の任意継続、国民年金の加入といった生活に関わる手続きなどを済ませます。これらは状況によって申請する内容(事業や生活に合った手続き)が変わりますので、提出前に窓口に相談することをお薦めします。
ビジネスモデルキャンバスを活用する
ビジネスモデルとは、利益を生み出す製品やサービスにまつわる事業戦略と収益構造のことで、ビジネスモデルキャンバスとは、以下のような9つの枠に項目を埋めていくことでビジネスモデルを可視化できる手法です。
- 顧客/CS(Customer Segments)
価値を届ける相手 - 価値提案/VP(Value Propositions)
顧客の抱える問題を解決し、要求を満たすもの - チャネル/CH(Channels)
顧客の求める価値を提供していることを告知する方法、価値を届けるルート - 顧客との関係/CR(Customer Relationships)
顧客との関係性を構築、維持、展開するための仕組み - 収入の流れ/RS(Revenue Streams)
顧客から支払われるお金の流れ - リソース/KR(Key Resources)
上記を提供するために必要となる資源 - 主要活動/KA(Key Activities)
ビジネスモデルを機能させるために取り組まなければならない活動 - キーパートナー/KP(Key Partners)
外部に委託される活動や、外部から調達されるリソース - コスト構造/C$(Cost Structure)
リソースの調達、キーアクティビティ、キーパートナーと働くためのコスト
ビジネスモデルキャンバスを活用と事業の全体像を理解できるほか、実際に活動が始まると必ずと言っていいほど生じる計画と実務とのギャップを把握し、軌道修正が円滑にできます。ビジネスモデルキャンバスのフォーマット(PDFファイル)は「図解ビジネスモデル・ジェネレーション ワークショップ:翔泳社」でダウンロードできますが、本格的に活用される場合は「ビジネスモデル・ジェネレーション:ビジネスモデル設計書」のような関連書籍を読まれた方が、より高い精度で構築できるようになります。
自分でやること、人に頼むことを決めておく
フリーランスになると、日常業務はもちろんのこと経営、営業、企画、経理、人事などの役割を理解し、状況に応じてこなす必要が出てきます。独力で完結できる場合は良いのですが、いずれかが著しく苦手な場合は、モチベーションやパフォーマンスに悪影響を及ぼします。特に営業と経理は、経験か素養がなければ苦労しやすい分野です。
情報が得やすい現代では、意外と何とかるのかも知れませんが、事前に対策を講じ最善を尽くす姿勢は、経営者として身に付けておきたいものです。フリーランスになるための予備知識が準備不足が招くトラブルをひとつでも多く回避し、ビジネスの成長に役立てば幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。
Text:高橋智広
フリーランス。「 IT、デザイン、 マーケティングを武器に参謀を担い、 顧客の想いを起点とした市場活動の遂行により事業の存続を実現する」 というスローガンの下、夫婦で小規模事業者を専門にマーケティング、業務効率化、Web制作などのサポートを行っている。